30周年 Sugar Babe
30周年記念として、シュガーベイブの"Songs"が、CDとして三度目のマスタリングを施され先頃リリースされた。
そういまから30年前、1975年のことだ。
当時、僕は中学生だった。
シュガーベイブは売れなかったというのが定説になっている。
それは多分に伝説がかったところがあり、田舎の中学生がアルバムを買ったり貸したりしていたのだから全くの無名ではなかった。
実際にラジオでは"Down Town"がオンエアされていたし、僕はこのバンドのヴォーカルが少し前に不二屋ハートチョコレートのTV-CMを歌っていたことにも気がついた。
正しくは「その内容に比べてみて、あまりに売れず、あまりに知られなかった」ということなのだ。
僕の知る限り"Down Town"以外の曲がラジオでオンエアされることはなかった。
僕は中学校の学生新聞の編集長をしていた。
その職務として修学旅行のバスのなかで歌う歌集の編集をまかされ、こっそりとシュガーベイブの曲を何曲か忍ばせた。
もちろん、それは殆どの同級生の知らない歌であり、バスのなかで歌われることはなかった。
そんなことは承知で収録したのだ。
いったい、僕はこのアルバムをどれだけ聴いたことだろう。
間違いなく言えるのは、僕はブラック・ミュージックのファンとして何千枚かのレコードやCDを持つようになったが、この"Songs"以上に聴いたアルバムはないということだ。
話を進める。
メロディアスなポップに惹かれた僕が、どうしても理解できなかったのが最後に「おまけ」と但し書きされた"Sugar"という曲だった。
この魅力に気がつくには何年もかかったが、それは僕にとってファンクという音楽を許容する成長だった。
そのとき僕はソウル・ファンになっていた。
1980年、山下達郎は"Ride On Time"でブレイクする。
その直後、FMラジオで、このアルバムが全曲オンエアされた。
それを聴いた僕は、はっきりと時代が変わったことを心に刻んだ。
そのスマッシュ・ヒットを収録したアルバム"Ride On Time"には"My Sygar Babe"という曲が収録された。
さらに80年代前半の大瀧詠一(このアルバムのプロデューサーである)と山下達郎の勢いに乗り、シュガーベイブの未発表曲がぼつぼつと公式化されるようになる。
80年代後半、このアルバムの初CD化は、吉田保によるリミックスが過剰に行われ、ウォール・オブ・サウンドとして姿を変えた。
このCDは決して悪くない、素晴らしい内容だと僕は思う。
しかし原典主義の山下達郎自身により1994年、20周年を記念して新たなマスタリングが施され二回目のCD化がなされる。
これを記念して「山下達郎 sings Sugar Babe」というコンサートが中野サンプラザで行われた。
僕は席から動くこともできず涙を流していた。
そして2005年、30周年の三回目のCD化。
音はアナログLPを基本とし、また別な豊かな色を帯びた。
もちろん、これも悪くない。
ただ、僕のなかで鳴っているのは、いつもELEC時代のアナログの音だ。
何千回と聴くうちに傷つけたノイズと共に、それは鳴り続けている。
今回のCDには、全メンバーのコメントがブックレットに収録されている。
それを読んだとき10年ぶりにシュガーベイブで僕は泣いた。
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Comments
シュガーベイブのこと自分のブログで書いたので他の人が書いてるブログを検索してたら、こちらのブログにたどり着きました。
リアルタイムで聴かれた方ならではの、「本当はまったく売れなかったというワケではなかった」などという部分など、大変教務深く読ませていただきました。
自分もブラックミュージック大好きで、DJ&ラッパー活動もしています。自分の全然知らないアーティストもこちらのブログで多数紹介されているので、これからも楽しみにして読ませていただきます。では。
Posted by: たけひろゴールド | December 29, 2005 01:03 AM
コメントありがとうございます。
当時はまず、日本のロックというマーケットそのものが今とは比較にならず小さかったんです。
日本人でシュガーベイブを知っている人は僅かでしたが、ロックファンの間では、むしろ相当な知名度だったと思います。
というわけで正しくは「絶対数として売れなかったのは本当だが、音楽好きのなかで無名だったわけではない」ということなんでしょう。
ぜひこれからもご愛読ください。お願いいたします。
Posted by: Sugar Pie Guy | December 29, 2005 04:23 PM
山下氏が桜井ゆたか氏のコレクションを全て引き取る話は、知っておりますか?
山下氏には大辞典完結後にコレクションを全て引き渡す約束をされましたが、桜井氏は、大辞典の完結を諦めたので、もう引き渡してしまったかもしれません。 レコード・CDは勿論、R&B・ソウル関係の資料も全てだそうです。 桜井氏もかなり老けられました。
Posted by: Naoya | February 09, 2006 05:59 PM
>Naoyaさん
コメントを読むのを失念しており、たった今読みました。
別ルートからこの話を聞き半信半疑だったんですが本当のようですね。
「ソウル大辞典」は桜井さん一人の手には余る大事業だったと思います。
ワープロ(和文タイプ?)のミスも多かったし---
山下達郎を通じソウル・ミュージックを知った僕としては達郎が桜井さんの志をなんらかの形で発展させてくれないかなと願うばかりです。
Posted by: Sugar Pie Guy | March 01, 2006 11:17 AM