寄席気分その1 Chicago Gangsters
東京に3年間転勤で行っていたのだが、月に一回くらいは寄席に通っていた。(古今亭志ん朝の高座を聴けたのは今となってみれば我が一生の幸せだった)
寄席の時間は、だらだらと流れている。時間軸が日常とは違うのだ。そのための重要なファクターは「出てくる芸人の大半がつまらない」ことにある。
テレビの笑芸人を見慣れている方にはショッキングなほどつまらない。笑いのネタが死んでいるような芸人が次々と出てくる。
しようがねえなぁ、と思っていると、キラリと光る芸がたまに出て来て、ほっとした気分になる。
そして膝代わり(トリの前の芸)がさらりと終わると大看板が鮮やかな登場。たっぷりと噺を聴かせて寄席の一日が終わる。
勘の良い方はもう気がつかれただろう。つまらないなぁと思わせるのも芸なのである。
寄席はライブとは違う。
客はそれぞれの都合で集まってくる。最初から通しで見ている客もいれば、途中からの客もいる。
「もうはじまって半分過ぎちゃったな、いまから入ったら損だからやめておこう」と思わせるもいけないし、またハナから来ている客に刺激を与え続けて慣れさせてもいけない。
さっと終わる手妻(手品)、漫才、漫談、コント、曲芸----そうしたアクセントも加えながら、ショー全体がうねっていく。
この流れを納得できると、寄席の時間にはまるようになる。
もちろん、合間合間に素晴らしい芸がはさまっているのが肝心。
長い前置きだったが、今日とりあげる(シカゴ)ギャングスターズというのは僕にとって極上の寄席体験に等しい。
素晴らしい曲がアルバムにちゃんと入っている。しかし、その合間に、悪くはないけれど特に色めきたつほどではない曲が混じっている。その緩急が僕のリズムにぴたりとはまる。
大傑作ではないのだが、これぞソウルのアルバムだという思いが強い。
Blind Over You Chicago Gangsters (Gold Plate 1011) -1975-
まずは彼らの1stアルバム。
最初の2曲。これがいずれも素晴らしい。"Blind Over You"はブラック・アイスのカバーでも知られる名曲。そしてウィリー・ハッチの"I Choose You"のタメ具合は原曲をしのぐソウル度。
このまま曲が進んでいったら、どうなるのだろうかという緊張感をほぐすように「良いことは良いが、特にぴっくりするほどではない」曲がはさまっていく。
これは悪口じゃなくて、気持よくアルバムが聴けるという褒め言葉。酒を飲みながら聴くのにはうってつけ。(今現在、このアルバムを聴きながらテキーラとアクアビットをぽんちゃんで飲んでます)
さて、このアルバム。ジャケットが謎。
このジャケットのせいで、このグループは白黒混合だろうと言われたこともあった。
男性二人は、おそらく「盲目の芸人」を表現しているのだろう。二人の杖は盲人のものだろうし、下側の男がバイオリン・ケースのようなものを持っているから芸人と推察した次第。アルバム・タイトルの"Blind Over You"にかかっているというわけだ。
さらに文字部分の黒いギザギザはマシンガンの弾痕。
シカゴと言えば、ローリング・トゥエンティーズのアル・カポネで有名なギャングの産地。尤もカポネは最高最悪のギャングスタというわけではなく、目立ちたがり屋ゆえに大衆のネタになった中ボス。なんとなくピントのずれた芸人ぽくて、このグループにはぴったりの印象だと思う。
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