感涙 Soul Children
昨今のコンピュータ・テクノロジーはレコーディングという敷居をぐっと低くした。同時にネットによりリスナー側もささやかな熱意で海を越えて欲しいものを注文できるようになった。
気がつけば、ソウルのインディーズの世界の大きな部分をベテラン勢の再活動が占めるようになった。ソウル・ジェネレーションから、ハーツ・オブ・ストーン、さらにかってはLPを出すこともできなかったインペリアル・ワンダーズ、エリック&ザ・ヴァイキングスといった連中まで新作を出す。
それはそれで嬉しいのだが、びっくりするほど良いというものは殆どない。
J.ブラックフットの歌力は作品を重ねるごとに落ちてきている。その彼が中心となってソウル・チルドレンを再結成と聞いても、ああまたかと思っていた。
正直に告白すると、このCDをトレイに入れるときは、J.ブラックフット=ジョン・コルバートではなく、ノーマン・ウェストの現在に興味があった。
一曲めからぶっとばされた。
この熱さはなんなんだ。
この勢いがそんなに続く筈がない---ところが勢いはとどまらない。
彼らの1stアルバムの収録曲の"I'll Understand"のセルフ・カバーまで来て、思わず不覚をとってしまった。ああ、これぞソウル。気がつけば僕の半生を捧げてしまった音楽がここにある。
つとめて冷静になり書き続ける。
ジョン・コルバートの歌は、もちろん全盛期のそれではない。声の伸びよりノイズが勝り一本調子になりがちだ。しかしその弱点もグループであればカバーできる。
ノーマン・ウェストにいたっては音程がずれるときもある。とても一人では歌いきれない。しかしその弱点もグループであればカバーできる。
女性二人はオリジナル・メンバーではない。しかしそのうちの一人アン・ハインズはベテランだ。彼女自身の録音もあるが、J.ブラックフットのクリスマスアルバム"This Christmas"(1997)で、"Away In A Manger"という曲にノーマン・ウェストと共に彼女が参加していたことを思い出し、膝を打った。一人立ちするにはややもったりしたシンガーだが、しかしその弱点もグループであればカバーできる。
もう一人の女性、カサンドラ・グラハムについても同じ。すべてはグループであればいい。
そう、ここにはソウル・コーラス・グループの一つの理想型がある。単調に陥ることを避けるために黒人たちが築き上げたコール&レスポンスの伝統が十二分に発揮されている。
長尺(8分強)の"The Sweeter He Is (Live) Part 1 & 2"の後半はマンハッタンズの"Shinning Star"になっている。ここでまた不覚をとった。
これぞソウル・ミュージックのコーラス・グループのありかた。
いまどきのソウル/R&Bなんて、とおっしゃるソウル・ファンにこそ聴いてほしい名盤である。
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Comments
ほんとノーマン・ウエストっていいですよね。あの粘り着くような歌い方、ちょっと甘めの声。本当、deep!
Posted by: ヒロさん | August 15, 2009 09:26 AM
ヒロさん
同感です。
若い頃は、(突っ張っていたんでしょうか)ベタついた感じが、完成の域に遠いなどとご託を並べていたのですが、この歳になると、ひたすらシミます。
Posted by: Sugar Pie Guy | August 19, 2009 01:34 AM