疑問 「ブラックミュージック入門」
ところが少し読んだだけで首をかしげることに。う~む。
ブラック・ミュージック入門 泉山真奈美他 (河出書房新社)-2008-
この本の目的は冒頭の筆者たちの座談会の前フリで語られている。(P.8)
ヒップホップは大好きだけれど、昔のソウルやファンクはあまり聴いたことがない。あるいは白人のロックは広範囲に長年愛聴しているけれど、ブラックミュージックには不案内。そんな方のために~
なるほど。
ところが座談会の口火を切るこの発言で「うっ」となる。
今回は、ブラックミュージックの、アメリカでのメインストリームの流れを紹介することにして、ブルースやジャズは入れませんでした。
ブルースやジャズがメインストリームでなかったかのようだ。
ざっと読んだだけだが僕は疑惑を抱いてしまった。
「入門者」たちが知りたいのはソウル以降のアフロ・アメリカンの音楽だという仮説で本を編んだのではなく、そもそも書いている本人たちがそれ以外のブラック・ミュージックを知らないだけではないのか。
自分のために予防線を張っておく。
僕は大してブラック・ミュージックに詳しいわけではない。通り一辺倒の知識で聴いているだけ。誤りをしょっちゅう書き飛ばすのはこのブログの読者の方ならよく承知の通り。
ただお代を頂戴する本を書くのならば知らないことは書くべきではない。さらに周りの音楽仲間に校正を依頼したほうがいい。
それをおろそかにするのは不遜なのか、単に友達がいないのか。
以下、いくつか疑問点をあげておく。
1950年代なかば~後期には、まだまだ先代的なブラック・ミュージックが息づいていた。たとえば、コーラス・グループがアマチュア時代に路上パフォーマンスを行っていたことから「ストリート・コーナー・ドゥ・ワップ」と呼ばれたドゥ・ワップ・グループ(フラミンゴス、ムーングロウズ、プラターズ--etc)P.26
「ストリート・コーナー・シンフォニー」、あるいは「ストリート・コーナー・ハーモニー」とは言うが、「ストリート・コーナー・ドゥ・ワップ」なんて言葉は聞いたことがない。あったとしてもドゥ・ワップ(Doo Wop)いう名称は後年(1970年代)につけられたものだから50年代にあった筈がない。
さらにプラターズはドゥー・ワップではない。(コーラス・スタイルが異なる)
最初は単なる誤記かと思ったのだが、この「ストリート・コーナー・ドゥ・ワップ」という字句は別な章でも出てくる。
次はノーザン・ソウルについて。
ソウル・ミュージックを二種類に大別した場合、南部のサザン・ソウルと北部のノーザン・ソウルに分けられる。前者の特徴は泥臭くてディープ、後者のそれは洗練されていてポップ路線寄り、と表現されることが多い。P.30
ノーザン・ソウルとは、シンガーの出身地に関係なく、彼ら/彼女らが所属していたレーベルの本拠地がアメリカ北部に位置することから名づけられた総称である。P.32
グローバル化が当時から格段に進んだ現在、この定義を信じて英国のノーザン・ソウル集CDを聴いたら混乱するだろう。
※ノーザン・ソウルとは英国北部で好まれたダンス・サウンドを指す
それにしても我々ソウル・ファンにとって最大の形容である「ディープ」を「ポップ」に対比させられては憤懣やるかたない。ポップな楽曲でもディープな味わいがある、という曲はざらにある。
これ以上の引用は揚げ足取りになるだけなのでやめておく。総体について書いておく。
「ブルースやジャズについて触れない」というのは良いとしよう。本としてのページ数にも限りがあり、話が拡散するから。
ただそうであれば、ソウル誕生の歴史も割愛せねばならない。いきなり代表アーティストや楽曲の紹介にいけばいい。
ソウルの誕生にはゴスペルの影響があった書いてあるものの、ゴスペルのスタイルとはなんであり、筆者の表現「先代的なブラック・ミュージック」とゴスペルは何が違うのかが書かれていないから意味がない。せめてスタイルとしてのコール&レスポンスくらいは説明してもいいのではないか。
ソウルという言葉について、この本ではレイ・チャールズが命名したように受け取れる記述があるが、それはジャズから来たものだと書いてほしかった。これはトリビアではない。黒人公民権運動が吹き荒れるなか、なぜソウルという音楽が誕生したのかを書くことによって、そのスタイルの特質であるシャウトやファルセット、ワンコードによるファンクの意味がわかるはずだし、だからこそソウルが80年代には衰退する所以もわかる。
しかたがないとは言ったものの、ブラック・ミュージック入門者にジャズやブルース、特に30~40年代のジャンプやジャイブを閉ざしてしまうのはやはり残念でならない。
JBが影響されたのはロイ・ブラウンやワイノニー・ハリス達だった。
日本のソウル・ファンがいっこうに増えない現在、こうした本が出るのは大歓迎なだけに残念だ。
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Comments
貴兄の「ソウルミュージック」房は勉強になります。
本項、私は50年代の(ブラック)ジャズに対してはリスペクトしているので、
そこを飛ばして「ブラックミュージック」を語る本著には同感の異論ですね。
少し引き伸ばすと、所謂「ロック」の歴史はJimi Hendrixから始まった、との自論を持っているので(ビートルズ・
ストーンズは「pop」です)
本著は黒人の「音楽歴史」を語る骨子からはずれてるのでは?と推察致します。
Posted by: Ishi-Ken | December 20, 2008 02:46 AM
Ishi-Kenさん。
ロック論については、こんどリアルに飲みながら語り合いましょう。
ただし語義としてのロックンロールと、精神としてのロックンロールを混同するのは不毛です。
※お時間があれば「アラン・フリード」で検索してみてください
Posted by: Sugar | December 20, 2008 11:57 AM
まあ、Sugar Pie Guyさんや僕らからしたら、この本のアラばっかり見えるかも知れませんね。
ほんと、せっかくなのに、ソウルファン増えて欲しいのにって感じですね。
きっと、買って読んだら腹立つだけだろうから買いません。
まず、Black Musicという言葉自体、アメリカには無いのです。もし、Black Musicなどという言葉を使ったとすれば、それは差別用語です。
どうしてもBlackという言葉を使いたければ、Music for black peopleです。
勝手に日本人が差別用語を造語するなと、まず言いたいです。
Posted by: esoul | December 21, 2008 06:34 PM
esoulさん
なるほどBlack Musicは差別用語なんですか。
Soul Musicはどうなんでしょうね?
米チャートでソウルがブラック・コンテンポラリーになりR&Bになったということは差別用語なのかなと思います。
Apple社のiTunesにもジャンルとしてSoulという選択肢がありません。
Posted by: Sugar Pie Guy | December 21, 2008 11:50 PM
"Soul"
は少なくとも僕が渡米していた90年代前半はジャンル用語でした。
僕の住んでた町のTower RecordsではSoulというコーナーにちゃんとSoulのCDが並んでいました。ちゃんと60年代以降からReal timeが入っていました。
Posted by: esoul | December 24, 2008 09:40 PM