マーヴィン・ゲイ物語 引き裂かれたソウル
ソウルの時代は遠くなっていくが、毎年毎年新しい音源に出会うことができている。歳をとることは悪くない。
昨年の初秋にこの話題の本を読んだ。
マーヴィン・ゲイ物語 引き裂かれたソウル デイヴィッド・リッツ (吉岡正晴訳 P-Vine Books)
それについて書こうと思いつつ、気持ちをまとめきれなかった。
年が改まったからといってすんなり書くことはできないと思うが、なんとか格闘してみよう。
マービン(以降、僕の時代の書き方でマービンと表記)のアルバム"Midnight Love"は当時大学生だった僕にとって衝撃だった。
マービンについては出来不出来の激しい人で、"Let's Get It On"以降は下がりっぱなしという印象を持っていた。現在では評価の高い"I Want You"も、その頃はあまり良いとは思えなかった。
Motownからも見放され、CBSから出た新アルバムには半信半疑だった。
それが見事な復活。
正確には復活の兆し。この人はもう一度高みに登ろうとしていると感じた。
そして1984年4月2日、その日の新聞朝刊に前日マービンが死んだという死亡記事を見つけ、脳天を直撃されたようなショックを味わった。
天はマービンに次の高みへ登るための時間を残さなかった---。
そう思い続けて25年余。
この「マーヴィン・ゲイ物語」の遂になった邦訳を読んで、それが誤解だったことを知った。
この本を書いたデイヴィッド・リッツを信ずる限り、"Sexual Healing"を含むアルバム"Midnight Love"がマーヴィンの創作の限界だった。
ドラッグに蝕まれた身体に、まさに引き裂かれたソウルがかろうじて宿っていた状態。マービンの死は早晩避けられないものだったのかもしれない。
しかし残酷な話だが、だからこそ彼のソウルは人々の心に訴えたのだと思う。
徹底的にだらしなく不道徳な男。誘惑に弱く、言い訳ばかりの男。だが彼にはとてつもない音楽的才能があった。そして音楽創作に対してだけは誠実であり続けた。
マービン・ゲイの最高傑作はなんだろう。アルバム"Let's Get It On"のB面はR&Bシンガーとして彼のベストだと思うし、作品の出来としてはタミー・テレルとのデュエットをあげたい。
しかしそれらを超えて僕はこの曲が好きだ。
My Love Is Waiting / Marvin Gaye
生前最後のアルバム"Midnight Love"の最後の曲。その冒頭の感謝の辞が暗示するかのように彼は神の御許へ逝ってしまった。
今年僕はソウルバーを開く。
そのオープン日は4月1日と決めている。
マービンの命日だ。
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Comments
>そのオープン日は4月1日と決めている。
マービンの命日だ。
あぁ〜、なるほど、それで4月1日でしたか。
(4月としか聞いてなかったかな?)
そこにピンとこないのはソウルファンとして恥ずかしい事でした。
いやぁ〜、自分が情けない。
>その冒頭の感謝の辞が暗示するかのように彼は神の御許へ逝ってしまった。
「My Love Is Waiting」は違和感ありありの曲でしたが
確かにそうですね〜。
>マービンについては出来不出来の激しい人で、"Let's Get It On"以降は下がりっぱなしという印象を持っていた。
個人的にマービンを好きなのは
いろいろな醜態を含めて人間の泥臭いところ.....人間臭さをストレートに感じさせてくれるところ。
うちのブログのタイトルの下にヘルマン・ヘッセのデーミアンの一節
「それを聞いていると、人間が天国と地獄をゆさぶっているのが感じられるような、そういう音楽」
を入れてるのですが、そういったところをマービンは聞かせてくれます。
一般的に評判の悪い「Here, My Dear」のボヤキや話題に上らない「In Our Lifetime」のファンクにもぞっこんです。
Posted by: ad | January 02, 2010 06:12 AM