Willie Clayton "Feels Like Love"
日英のソウルファンの熱い期待を受けてのメジャー、ポリドール録音は89年の一枚のアルバムで終わる。このまま消えてしまうのではという不安(当時は現在ほどインディーズでの録音が楽ではなかった)は杞憂に終わり、92年にこのアルバムを発表する。
ただし後述するが、本当に新録なのかという疑問は残る。
Feels Like Love Willie Clayton (Ichiban ICH 1155CD)-1992-
リリースは当時のインディーズの雄イチバンだが、音源はカースティとのクレジットもある。
さて、ところで。
僕はウィリー・クレイトンを星飛雄馬に重ねてしまう。
そう「巨人の星」のあの飛雄馬。
飛雄馬は類いまれな制球力と球速を持った投手だが、同時に大きな欠点を持っている。それは「球質が軽い」ということ。バットに当てられればポーンと長打を許してしまう。
物理的にそういう球質があるのか漫画の世界の架空なのか知らないが、そのため飛雄馬は高校野球までは大活躍するがプロでは厳しい成績をよぎなくされる。その彼が自らの体(命)と引き替えに手に入れるのが大リーグボール---
ウィリー・クレイトンの歌の巧さは大変なものだ。しかし彼を「偉大なシンガー」と呼ぶには歌が軽すぎる。
それが露呈してしまったのがポリドール盤ではないのか。
そして再起となる今回のアルバムでもそれは浮き彫りになる。
01 Walk Away From Love
02 Missing U
03 Make Me Yours
04 Suspended Annimation
05 That's The Way I Feel About You
06 Feels Like Love
07 Special Lady
08 Feels Like Love
09 Dear Lover
10 Your Sweetness
1はデヴィッド・ラフィンのカバー。いきなりカバーする相手が悪い。ウィリーの歌は素晴らしく、カバーとしても上等だが、デビッド・ラフィンの持つスケールには到底追いつけない。
2はオリジナルのナイス・ミディアム・バラード。この手の歌であればウィリー以上のシンガーを求めるのは難しい。このアルバムのベストトラック。
3は曲名にだまされないように。これは"Forever"にも収録されていた"Make Me Your Forever"そのもの。
4はなにを間違えたかJB風のかけ声ではじまるファンク調の曲。歌にはいればウィリーお得意のものなのだが、曲に魅力がないように思う。
5が最大の問題曲(よしあしじゃなくウィリー論を展開するうえで)。もちろんボビー・ウーマックの曲。多くのシンガーがカバーしているが、そのどれよりもウィリーはうまい。本家ウーマックよりうまいし、O.V.ライトよりうまい。だが、あまりのうまさが、逆に彼に足りないものを浮かび上がらせてしまう。歌が破綻しているボビー・ウーマック、なにかやる気の感じられないO.V.ライトのほうがディープ・ソウルを感じさせてくれるのだ。
6、お得意のタイロン・デイビス調。一曲聴いているぶんには悪くないが、この手のウィリー作品のなかでは平均的な出来になってしまうかな。
7、8、9は新録ではなく、"Forever"、"Open The Door"に収録済みの初期録音。
というわけで全9曲のうち4曲が旧録音の使いまわし。疑いの目で見れば残りの5曲も92年当時の新録ではなく録り貯めたものかもしれない。
"Forever"の紹介で書いたとおり、僕はウィリー・クレイトンが大好き、生涯のアイドルシンガーだと思っている。
今回は敢えて辛口の書き方になったが、彼を愛するがゆえの評論だと受けとめていただきたい。
僕が比較したのは「偉大なシンガー」、ディビッド・ラフィンやO.V.ライト、ジェイムス・カーといったランク。
並の成功したシンガーと比べているのではない。
たた、歌がうますぎるがゆえに、スケール感を問われてしまうという彼のある意味の不幸を表現したかった。
飛雄馬が超絶的な努力で永遠のヒーローとなったように、ウィリーもソウルの輝ける星となる。
それは「質は量が支える」を地でいった活動。
ウィリー・クレイトン全アルバム紹介、まだまだはじまったばかり。
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